生命保険金は,被保険者の死亡が理由で発生するものですから,実質的に相続財産と共通する側面はあります。しかし,裁判例上,債務を負った生命保険の被保険者が死亡し,生命保険の受取人がその相続人である場合,生命保険金は相続財産とならないとされており,生命保険契約に基づく受取人の固有の権利として,受取人が相続放棄をしても生命保険金を受け取ることができるとされています。
事例
Aさんは,中小企業の社長さんのBさんと結婚し,子どもも2人もうけ,幸せな家庭を築いていました。ところが,Bさんが,若くしてガンを患ってしまい,苦しい闘病生活を経たのですが,Aさんの献身的な支えも報われず,Bさんは亡くなってしまいました。
Bさんの会社は,大黒柱のBさんが亡くなったため,事業継続が難しくなったのですが,事業資金として銀行から2億円の借り入れをしており,社長であるBさん自身もその連帯保証人になっていました。他方で,Bさんは,Bさんを被保険者とする3000万円の生命保険をかけており,その生命保険金の受取人はAさんになっていました。
しかし,Aさんは,3000万円の生命保険金を受け取っても,Bさんの負っていた2億円の借金を返すことは到底できないので,子どもたちも含めて相続放棄をしようと考えています。3000万円の生命保険金も,これを受け取ってしまうとBさんからの相続を認めることになってしまい,相続放棄できなくなるのではないかと考え,これを受け取ることをあきらめようと考えているAさん。
Aさんは,3000万円の生命保険金を受け取ることはできないのでしょうか。
この事例を聞いた花子さんの見解
3000万円の生命保険金は,あくまで保険会社との契約に基づくものなんですよね。Bさんの財産を相続するというのとは,ちょっと違うと思うので,Aさんは,相続放棄をしても3000万円の生命保険金を受け取ることができるんじゃないかと思います。
この事例を聞いた太郎さんの見解
でも,3000万円の生命保険金は,Bさんの死亡が理由で発生するものですから,実質的にはBさんの財産を相続することと変わりませんよね。相続放棄で2億円の債務は負わないのに,3000万円の生命保険金は受け取れるというのは,あまりに都合が良すぎるように思うのですが。
弁護士の見解
今回のケースでは,Aさんは,相続放棄をしても3000万円の生命保険金を受け取ることができると思います。
確かに,生命保険金は,被保険者の死亡が理由で発生するものですから,実質的に相続財産と共通する側面はあります。
しかし,生命保険制度は,一般に,加入者の老後の生活安定やその遺族の生計維持を目的としているものです。そこで,裁判例上,今回のケースのような場合は,生命保険金は相続財産とならないとされています(大判昭和11年5月13日,最判昭和40年2月2日,最決平成16年10月29日,最判昭和48年6月29日など)。つまり,生命保険契約に基づくAさん固有の権利として,Aさんが相続放棄をしても受け取ることができるとされているんです。
太郎さんの質問
生命保険金は,相続放棄の有無に関わらず,どのような場合でも受け取れるものなんですか。
弁護士の説明
実は,受け取れないケースもあると考えられています。
例えば,Bさんがかけていた生命保険について,その受取人をAさんではなく,被相続人であるBさん自身としていたような場合は,生命保険金は相続財産になってしまうと考えられています(千葉地裁八日市場支判昭和7年3月19日)。このように受取人が被相続人になっている場合は,Aさんが相続放棄をしてしまうと,Aさんは生命保険金を受け取ることができなくなってしまうんです。
将来,何があるかわかりませんから,生命保険金の受取人は,自分以外の人を指定しておくように,注意していただきたいですね。
※本記載は平成30年4月16日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。