インターネットの掲示板に匿名で行った書き込みについて,発信者を特定するためのIPアドレス等の情報を,掲示板の管理者等から開示してもらい,発信者を特定することが可能です(プロバイダ責任制限法4条1項)。嘘の書き込みにより,損害賠償請求(民法709条)を受けたり,偽計業務妨害罪(刑法233条)などとして処罰される可能性もあります。
事例
ある居酒屋でアルバイトとして働いていたAさん。給料面でも,勤務時間の面でも,特に不満はありませんでした。しかし,その居酒屋の店長とは馬が合わず,意見が食い違って言い合いになることもしばしばでした。
そんなある日,Aさんが頑張って仕事をこなしていたにもかかわらず,閉店後,「店の売り上げが伸びなくて,このままじゃあ誰かに辞めてもらわなくてはいけないなあ。」などと言いながら,意味ありげな薄笑いを浮かべてAさんを見てくる店長に,カチンと来たAさん。店長と言い合いの喧嘩になってしまい,遂にAさんは「そんなに辞めて欲しいんなら辞めますよ!」と言って,お店を辞めることになってしまいました。
その夜,頭に血が上っておさまりのつかないAさんは,むしゃくしゃしてしまい,インターネットの掲示板に匿名で「居酒屋○○は,消費期限切れの肉を商品として出している。」などと,内部告発のように見える嘘の書き込みをしました。
その日は,それですっとしたAさんでしたが,後日,その居酒屋で今も働いている元同僚から,インターネットの掲示板に嘘の内部告発の書き込みがされていることが問題となっていると聞かされました。それを聞いて不安になったAさんですが,Aさんのこの書き込みは,法律的に何か問題になるでしょうか?
この事例を聞いた花子さんの見解
これは明らかに営業妨害だと思うんですが,Aさんは匿名で投稿してますよね。誰が投稿したかわからないインターネットの世界で,現実にAさんに法的な責任を負わせることは難しいんじゃないかと思います。
この事例を聞いた太郎さんの見解
やはり今回のケースは営業妨害だという点は同意見です。ただ,インターネットの世界でも,誰が情報発信したかを特定することは可能なんじゃないかと思うので,Aさんが法的な責任を負うこともあり得るんじゃないかと思います。
弁護士の見解
今回のケースでは,Aさんは,現実に法的責任を負う可能性があると思います。
お二人のおっしゃるとおり,Aさんの書き込みは,いわゆる営業妨害として,損害賠償請求(民法709条)を受けたり,偽計業務妨害罪(ぎけいぎょうむぼうがいざい,刑法233条)として処罰される可能性があります。
問題は,インターネットの掲示板に匿名で行った書き込みについて,発信者を特定することができるのかという点です。これについてはプロバイダ責任制限法という法律があり,この法律により,今回のようなケースで発信者を特定するためのIPアドレス等の情報を,掲示板の管理者等から開示してもらうことが可能なんです(プロバイダ責任制限法4条1項)。
太郎さんの質問
やはりインターネットの書き込みでも,誰がやったか特定できてしまうんですね。
その他,インターネットの書き込みの事例で,注意しておくべきケースはありますか?
弁護士の説明
例えば,書き込んだ本人は冗談のつもりで,「タレントの○○はマジむかつく。1週間以内に殺してやる。」などと書き込みをしたような場合,本人がいくら冗談のつもりでも,法的には脅迫罪(刑法222条1項)として処罰される可能性があります。
書き込んだ本人がいくら冗談のつもりでも,書き込みをされた側は,本気か冗談かなんてわかりません。インターネットでの書き込みは,皆さん気軽にされるとは思うんですが,後で大きな事件になってしまわないように,十分注意していただきたいと思います。
※本記載は平成30年6月2日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。