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未成年者の契約の取り消し

民法では,未成年者が親権者の同意なく行った契約は,原則として取り消すことができます(民法5条1項本文,2項)。しかし,未成年者が,「単に権利を得,又は義務を免れる」だけのものは,単独で行うことができます(民法5条1項但書)。未成年者がゲーム機をもらう契約は,法律上,負担のない贈与契約(民法549条)にあたり,「単に権利を得」るだけの契約のため,親権者は取り消せません。

未成年者の契約の取り消し

事例

 Aさんは,女手ひとつでBくんを育てるシングルマザーでした。Bくんは中学校に入学した後,勉強を頑張っていて,学校のテストの成績もいつも上位にいました。
 Bくんは,普段から,近所の仲のいい友達のおうちに遊びに行き,息抜き程度に家庭用ゲーム機で一緒に遊んでいましたが,そんなある日,Bくんが,その友達のおうちに遊びに行くと,その友達のおうちには,最近発売された家庭用ゲーム機がありました。Bくんが,「いいな~」と羨ましがっていると,その友達は,古い方のゲーム機ならあげるよ,と言ってくれ,友達のご両親も,構わないよ,と言ってくれました。
 ゲーム機をもらったBくんは,家に帰ると,さっそくゲーム機をテレビに接続し,ゲームに熱中。夜遅くに,仕事を終えてAさんが帰ってきても,まだゲームに熱中していました。その様子を見たAさんは,勉強そっちのけで遊んでいるBくんをしかりました。そして,友達からゲーム機をもらったことも説明を受けました。
 Aさんは,Bくんが,ゲーム機をタダでもらうことや,勉強そっちのけでゲームに熱中するようになることは,Bくんにとって教育上好ましくないと考えました。かといって,もらった物を捨てたり,転売したりするのも,やはり教育上良くないと考え,お友達のご両親にゲーム機を返そうと考えました。
 翌日,Aさんが,お友達のご両親にゲーム機を返しに行くと,お友達のご両親は,「子どもに,ゲームくらいさせてあげてもいいじゃないですか。ゲームで息抜きをしながら,勉強も頑張れるように教育することも大切ですよ。」などと逆に説教を言われてしまいました。これにカチンと来てしまったAさんは,「子どもが親の承諾なく勝手にやった契約は,親が取り消せると聞いたことがあります。契約を取り消すので,ゲーム機を受け取ってください。」と主張しました。
 果たして,Aさんは,Bくんがゲーム機をもらった契約を,取り消せるんでしょうか。

この事例を聞いた花子さんの見解

 子どもが勝手に物をもらってくることや,勉強そっちのけでゲームに熱中してしまうことが,子どもの教育上良くないという,Aさんの考えも理解できますね。今回,ゲーム機をもらうことについて,Aさんは同意していないわけですから,この契約を取り消すことができると思います。

この事例を聞いた太郎さんの見解

 ゲームをしたいというBくんの子どもらしい素直な気持ちも,尊重してあげたい気はしますね。お友達のご両親も,良かれと思ってBくんにゲーム機をあげたわけですから,それを取り消すというのは,疑問もありますね。

弁護士の見解

 今回のケースでは,Aさんは契約を取り消すことはできないと思います。
 民法では,未成年者が親権者の同意なく行った契約は,原則として取り消すことができると定められています(民法5条1項本文,2項)。これは,一般的に判断能力が十分とはいえない未成年者を保護するための制度です。
 しかし,この制度には例外もあって,未成年者が,「単に権利を得,又は義務を免れる」だけのものは,単独で行うことができるとされています(民法5条1項但書)。
 今回のケースでは,Bくんがゲーム機をもらった契約は,法律上,負担のない贈与契約(民法549条)にあたり,「単に権利を得」るだけの契約といえます。したがって,Bくんは,親権者であるAさんの同意がなくても,これを単独で行うことができ,Aさんは,この贈与契約を取り消すことはできないと思います。

花子さんの質問

 贈与契約は,単に権利を得るだけの契約だから取り消せないということは,わかりました。そうすると,お金を払って物を買う,売買契約は取り消せるということになると思いますが,子どもがお小遣いで物を買うような場合はどうなるんでしょうか。

弁護士の説明

 未成年者の行為の取り消しの制度には,他にも例外があって,親権者が目的を定めて処分を許した財産は,その目的の範囲内において,未成年者が自由に処分することができ,また,目的を定めないで処分を許した財産も,未成年者が自由に処分することができるとされています(民法5条3項)。
 子どものお小遣いは,この「目的を定めないで処分を許した財産」にあたるでしょうから,子どもは親権者の同意がなくてもお小遣いで自由に買い物ができると思います。

※本記載は平成30年6月9日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。

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