「ネガティブオプション」「送り付け商法」「押し付け商法」などと呼ばれる一種の詐欺商法の場合のように,商品を一方的に送りつけられたとしても,それは売買契約の申し込みにすぎないので,受け取っただけでは,売買契約は成立しておらず,商品の代金を支払う義務は生じません。
事例
Aさんは,ある日,自宅に,宅配便で,分厚い雑誌が送られてきたので,受取のサインをしました。
とりあえず受け取ったものの,注文した覚えがないものなので,そのまま放っていたところ,その雑誌が届いてから10日後に,福祉団体と名乗るところから,電話がかかってきて,「あなたはうちの発行した雑誌を受け取っているので,雑誌代金として1万2000円を支払って下さい。」と言ってきました。注文した覚えもないものでしたので,Aさんが,代金支払いは納得できないと言うと,「7日以内に返品をしなければ購入したものとみなす,との書面を雑誌に同封していました。私共は,ちゃんと購入をされるかどうかについて確認をして,あなたが期限内に返品しなかったので,購入していただいたものと思っていますから,今更購入しないと言われても困ります。1万2000円の代金を支払って下さい。」と言われてしまいました。
驚いてもう一度商品を見てみると,確かに,同封されていた封筒に振込先の明記された1万2000円の請求書と「7日以内に返品しなければ購入したものとみなします」との書面が入っていました。
注文をしてもいないような商品の代金を払うのは納得いかないのですが,ちゃんと確認しなかった自分も悪いのかな,とも思うAさん。商品代金を払わなければいけないのでしょうか。
この事例を聞いた花子さんの見解
心当たりのないものは受け取るべきではないでしょうし,受け取ったならば送られてきた物の内容をちゃんと確認しないというのも不注意だと思います。釈然としないところもありますが,この件では受け取ったAさんの不注意もあるので,代金支払い義務はあるのではないかと思います。
この事例を聞いた太郎さんの見解
今からでも,購入する意図は無いと伝えて,商品を返品したらどうかと思います。書籍ならば,これくらいの日数で商品価値が落ちるとも思わないので,商品が返品されたら,業者はもう一度その商品を売れるのだから,返品した人が代金を支払わなくても良いと思います。
弁護士の見解
今回のケースでは,商品の代金は支払わなくても良いと思います。
これは,「ネガティブオプション」「送り付け商法」「押し付け商法」などと呼ばれる一種の詐欺商法です。
まず,商品を一方的に送りつけられても,それは売買契約の申し込みにすぎないので,受け取っただけでは,売買契約は成立していません。つまり,商品を受け取っただけでは,代金支払い義務は生じません。
今回のケースで同封されていたような書面があって,業者に返品をしていなくても,受け取った人が,売買契約成立を承諾したことにならないので,代金支払い義務が生じないということに変わりはありません。
そして,特定商取引法という法律で,商品を受け取った日から起算して14日経過したときには,販売業者は,商品の返還を請求できないと定められています(特定商取引法59条1項)。また,商品を受け取った人が,販売業者に商品の引き取りの請求をした場合には,請求日から起算して7日が経過したときには,販売業者は,商品の返還を請求できないとも定められています(特定商取引法59条1項)。
このような期間経過後には,販売業者が商品の返還を請求できなくなるので,受け取った人は,期間経過後であれば商品を捨ててしまっても問題ありません。
但し,このような期間経過前には,商品を使ったり,捨てたりしないよう注意する必要はあります。そして,期間経過前に商品を使ったり,処分したりすることは,売買契約を承諾した行為とみなされてしまう可能性があり,代金支払義務が生じてしまうことがあるので,注意が必要です。
今回のケースでは,商品が送られてから,10日目なので,Aさんは,あと4日経過するのを待って,自由に処分したら良いと思います。そして,代金を支払う必要はありません。
もっとも,このようなトラブルを予防するためには,そもそも,注文した覚えのないものは受け取らないのが一番ではあります。
※本記載は平成30年7月28日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。
なお,令和3年7月5日までに届いた商品については,上記の説明のとおりになりますが,法改正により,令和3年7月6日以降に届いた商品については,商品を受け取った日から起算して14日経過しなくても,受け取った側が直ちにその商品を処分できるようになりました。