動物の飼い主は,その動物が人に怪我を負わせた場合,原則として損害賠償をする義務があります(民法718条1項本文)。ただし,飼い主が,「相当の注意」をしていた場合には,責任を負わなくてもよいとされています(民法718条1項但書)。しかし,家の中で放し飼いにしている飼い犬が,外に出ないように専用の柵を設置していたとしても,飼い犬が外に出てしまった場合,必ずしも全てのケースで,「相当の注意」をしていたとされるとは限りません(鳥取地判平成26年5月27日など)。
事例
Aさんは,自宅で小型犬を鎖に繋がない状態で飼っていました。しかし,Aさんは,その飼い犬が自宅の外に勝手に出てしまわないよう,家の出入口の手前に,飼い犬を室内で飼うための専用の小さな柵を設置していました。
ある日,Aさんがゴミ捨てのため玄関を開けたまま家の外に出たところ,Aさんの自宅の近くを散歩していたBさんに,Aさんの飼い犬が,走り寄っていき,これを避けようとしたBさんが,その拍子に転んでしまい,骨折してしまいました。
Aさんは,ゴミ捨ての際,専用の小さな柵は閉めており,飼い犬が外に出てしまうとは考えていませんでした。他方で,Aさんは,以前,飼い犬がその柵のスライド式のロックに触って,柵が開いてしまったことがあることも分っていました。しかし,Aさんの飼い犬は,普段から人に危害を加えるような様子もなかったので,Aさんは柵のロックの点は,それほど気にしていませんでした。
このようなケースで,Aさんは,Bさんに,怪我の賠償をしなければいけないのでしょうか。
この事例を聞いた花子さんの見解
Aさんは,飼い犬を家の中で放し飼いにしていましたが,専用の柵を設置して,飼い犬が外に出てしまわないように,対策をきちんとしています。ですから,Aさんは,Bさんの怪我の賠償をする必要はないと思います。
この事例を聞いた太郎さんの見解
Bさんは,Aさんの飼い犬に咬まれたわけでもなく,Aさんの飼い犬はBさんに全く危害は加えていません。骨折したのはBさんの不注意でしょうから,Aさんは,Bさんの怪我の賠償をする必要はないと思います。
弁護士の見解
このケースでは,Aさんは,Bさんの怪我の賠償をしなければなりません。
動物の飼い主は,その動物が人に怪我を負わせた場合,原則として損害賠償をする義務があります(民法718条1項本文)。ただし,飼い主が,「相当の注意」をしていた場合には,責任を負わなくてもよいとされています(民法718条1項但書)。
このケースで,飼い主が「相当の注意」をしていたと言えるかですが,Aさんは,家の中で放し飼いにしている飼い犬が,外に出ないように専用の柵を設置していますが,ロックが外れたこともあることは認識しており,それにも関わらず,ゴミ捨ての際,玄関を開けたままにして外に出てしまっています。Aさんの飼い犬が,普段は人に危害を加える様子がなかったとしても,今回のケースのように,外に出た飼い犬が人に向かって走っていって,その人が避けようとして転倒するということも,全く予測できなかったとは言えないので,Aさんが「相当の注意」をしていたとは言えないと思われます。
太郎さんの質問
犬が自分に向かって走ってきたことが原因とはいえ,危害を加えられたわけでもなく転倒して怪我をしたBさんにも,かなり責任はあるように思うのですが,その点は,考慮されないのでしょうか。
弁護士の説明
その点は,法律上も,もちろん考慮されます。
「過失相殺」というんですが,被害者にも落ち度がある場合,その落ち度の分だけ,損害賠償できる金額を減額することになります。
今回のケースと似たようなケースで,Bさんの落ち度が90%,Aさんの落ち度が10%と判断された裁判例もあります(鳥取地判平成26年5月27日)。
このように,Bさんに認められる賠償額を,現実に発生した損害よりもかなり減額することで,法律上は公平をはかることになるんです。
※本記載は平成30年9月22日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。