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建物明渡

分譲マンションの賃貸借

分譲マンションの一室を賃貸している場合,管理費は分譲マンションの所有者が支払義務を負うもので,賃借人は支払義務を負いません。賃貸借契約書で家賃のみが表示されている場合でも,家賃と管理費が併記されている場合でも,賃貸人が管理費を管理組合に支払う義務を負うことになります。

分譲マンションの賃貸借

事例

 Aさんは,Bさんの所有する分譲マンションを賃貸借し,毎月滞りなく,賃料を支払っていました。しかしながら,ある日,Aさんは,分譲マンションの管理組合からAさんが住み始めてから管理費が一切支払われていないので,実際に居住しているAさんに管理費を支払って欲しいと言われました。AさんとBさんの賃貸借契約書には家賃のみが記載されていて,分譲マンションの管理費については何も記載がされていませんでした。
 Aさんは分譲マンションの管理費を支払わなければいけないのでしょうか。

この事例を聞いた花子さんの見解

 分譲マンションを管理するための費用ですから,実際に住んでいて管理をしてもらうことで利益を受けているAさんが管理費を支払わなければいけないのではないでしょうか。

この事例を聞いた太郎さんの見解

 たしかに,Aさんが分譲マンションに住んでいて管理をしてもらっていることになりますが,Bさんも分譲マンションの管理をしてもらっているからこそ,Aさんに分譲マンションを借りてもらって賃料を得ているので,Bさんも分譲マンション管理の利益を受けているといえると思います。賃貸借契約書に管理費について何の記載もないわけですから,Aさんから支払ってもらった賃料の中からBさんが管理費を支払わないと,Aさんが賃貸借契約のときに金額も分かっていなかった管理費を支払わなければならなくなって酷だと思います。なので,Aさんは管理費を支払わなくてもいいと思います。

弁護士の見解

 このケースでは,Aさんは管理費を支払う必要はありません。
 管理費は分譲マンションの敷地や共有部分などの管理に必要な経費に充てるために分譲マンションの所有者が定期的に管理組合に支払うべきものです。
 たしかに,管理費は管理人の人件費や敷地内の清掃費,ごみ処理費などにも充てられるので,現実に住んでいて,その利益を受けている賃借人が支払うようにも考えられます。ですが,管理費は分譲マンションの単なる使用料ではなく,分譲マンションの環境を良好に保って,その資産価値を維持することを目的とするものです。そのため,分譲マンションの所有関係を規定している区分所有法でも分譲マンションの所有者は共有部分について生じる費用の負担をしなければならないことが定められています。
 ですので,分譲マンションの一室を賃貸している場合でも,管理費は分譲マンションの所有者が支払義務を負うもので,賃借人は支払義務を負いません。
 そのため,分譲マンションの所有者が部屋を賃貸する場合,通常は管理費の金額を考慮に入れて賃料を決定します。管理費を賃借人が管理組合に支払うように取り決めることは多くないと思います。今回のように賃貸借契約で家賃のみが表示されているときは,賃借人であるAさんは管理費の支払いには関与しないで,家賃を受領した賃貸人であるBさんが管理組合に対して管理費を支払うことになります。これは賃貸借契約書で家賃と管理費が併記されている場合でも,その合計額を賃貸人に支払うことになっていれば,賃貸の対価の内訳が明記されているだけですので,やはり賃貸人が管理費を管理組合に支払う義務を負うことになります。

花子さんの質問

 Aさんは,管理費の支払義務は負わないということですが,分譲マンションの賃貸借と他の賃貸借で何か異なることはあるのでしょうか。

弁護士の説明

 分譲マンションの賃借人は,建物の管理や使用に関して分譲マンションの所有者の共同の利益に反する行為が禁じられています。その行為による他の分譲マンションの所有者の共同生活上の障害が著しく,他の方法によってはその障害が除去することが困難な場合には,仮に賃貸人が賃貸借契約を解除しなくても,他の分譲マンション所有者全員の名で賃貸借契約の解除とその部屋の引渡しを求めることができます。
 通常の賃貸借では契約当事者しか契約を解除できませんが,分譲マンションでは契約当事者以外でも賃貸借契約を解除できるように区分所有法で規定されています。
 過去には,分譲マンションの他の住人に暴力をふるったり,飲酒して騒ぐなどの行為を繰り返した賃借人について,賃貸借契約の解除と部屋の引渡請求を認めた裁判例もあります。

※本記載は平成31年1月12日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。

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