法律では,エステサロン側がクーリングオフ妨害をした場合には,改めてエステサロンがクーリングオフできるという書面を利用者に交付し,そこから8日経過しない限り,利用者はクーリングオフできる,と定められています(特定商取引法48条1項,44条3項)。また,法律では,エステの契約の場合には,将来に向かっての解約(中途解約)も認めています(特定商取引法49条1項)。
事例
Aさんは,チラシに1000円でお試しエステとあったので,そのエステサロンに行ってみました。とても気持ちよく,美しくなった気がしましたが,帰りに肌チェックの結果を知らされ,店員に「このままにしておくと,後でしみになり取り返しがつかなくなります。」と言われました。Aさんは,店員にいろいろ説明されて不安になりましたが,費用が60万円かかると言われたので,断ろうとしました。しかし,1000円でエステを受けたという後ろめたさがあり,Aさんは断り切れず,分割払いでエステの契約をしてしまいました。
しかし,Aさんは,やはり支払いが不安になり,3日後に契約を解約したいと伝えにエステサロンに行きました。これに対し,エステサロンは,支払いができなくなってから相談に来るのならまだしも,一旦契約したのに,今さら解約したいと言われても困る,それに中途解約の場合は違約金として30万円を払ってもらわないと解約ができないと契約書にも書いてある,などと強い調子でまくしたててきたので,Aさんは30万円をすぐに払うこともできず,困惑してしまい,その日は帰ってしまいました。
Aさんは,契約をしたことが悔やまれて,せっかく契約したエステサロンにも行けず,夫にも知られて叱られたので,どうしてもやめたいと,もう一度エステサロンに行きました。すると今度は,「前のときならクーリングオフができたけど,今日はもう10日目だから,クーリングオフはできません。」と言われました。
Aさんは,エステの契約を解約できないのでしょうか。
この事例を聞いた花子さんの見解
Aさんは,8日間のクーリングオフの期間内に解約の通知を送っていない訳ですし,中途解約の違約金30万円もすぐには支払えない以上,解約はできないと思います。
この事例を聞いた太郎さんの見解
Aさんは,3日後に解約したいとエステサロンに行ったんですから,その時点で,口頭でクーリングオフが成立するのではないかと思います。
弁護士の見解
このケースでは,Aさんは,解約をすることができると思います。
まず,Aさんは,クーリングオフによる解約を主張することができます。
法律では,クーリングオフは,書面でしなければならないと定めてあるので,契約から3日後に口頭で解約を申入れただけでは,クーリングオフが成立したとは認められません。
しかし,法律では,エステサロン側がクーリングオフ妨害をした場合には,改めてエステサロンがクーリングオフできるという書面を利用者に交付し,そこから8日経過しない限り,利用者はクーリングオフできる,と定められています(特定商取引法48条1項,44条3項)。
今回のケースでも,Aさんは,契約から3日後にエステサロンに行って解約を申入れた際,エステサロンから強い調子でまくしたてられ,困惑したため,8日のクーリングオフ期間を経過してしまいました。ですので,Aさんは,今からでもクーリングオフをするという通知を書面で送って,解約をすることができます。
花子さんの質問
契約から3日後のやり取りについては,Aさんは録音などもしていない訳ですし,エステサロンが妨害なんてしていないと嘘を言ってきた場合,やはりAさんはクーリングオフを主張できないんじゃないでしょうか。
弁護士の見解
確かにその恐れもあります。
しかし,Aさんとしては,仮にクーリングオフ妨害が立証できず,クーリングオフの主張が認められなかったとしても,中途解約の主張ができます。
法律では,エステの契約の場合には,将来に向かっての解約(中途解約)も認めています(特定商取引法49条1項)。
もっとも,今回のケースでは,Aさんの結んだ契約に,中途解約のための違約金として30万円の定めがありますが,この点も,法律上,ここまで高額な違約金は認められません(特定商取引法49条2項,特定商取引法施行令15条,16条)。Aさんがエステの利用を一切していない現在の状況を前提にすると,エステサロンが請求できる金額は,せいぜい2万円少々といったところだと思います。
※本記載は平成31年4月6日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。