アンケートだと称して商品を売りつける「キャッチセールス」は,「訪問販売」と扱われ(特定商取引法2条1項1号),契約から8日以内なら,クーリングオフができます(特定商取引法9条1項)。また,商品購入の勧誘を受けている際に,消費者が帰りたいと言ったのに帰らせずに勧誘を続けたといった場合には,6ヶ月以内なら契約の取消ができます(消費者契約法4条3項2号)。
事例
大学生のAさんは,就職活動中で,ある企業の就職説明会に参加していました。就職説明会が終わり,Aさんがその会場を出たところで,若い女性から「就職活動に関するアンケートにご協力いただけませんか?」と声をかけられました。少しの時間で終わるならと思いOKすると,すぐそばにある喫茶店でお願いします,と言われ,喫茶店に連れて行かれました。すると連れて行かれた喫茶店には,若い女性の上司と名乗る体格のいい男性がいて,形だけアンケートをとっただけで,その男性から30万円の英会話教材の購入を勧められました。Aさんは,何度か購入を断り,「もう帰らせてください。」とも言いましたが,上司と名乗る男性が通路側の席に座り,Aさんが壁側の奥の席に座らされていたこともあり,席を立って帰ることもできませんでした。上司と名乗る男性は,Aさんに,「英会話教材は,就職活動にも役立ちます。英会話もできないなんて,就職活動をしている学生として失格ですよ。」などと強引な調子で迫ってきて,Aさんは,とうとう根負けして,英会話教材の購入契約をしてしまいました。
その後,やはり英会話教材はいらないと考えたAさん。英会話教材の購入契約を取り消すことはできるのでしょうか。
この事例を聞いた花子さんの見解
これは,クーリングオフの問題だと思います。ですので,契約から8日以内なら,クーリングオフで解約できると思います。逆に,契約から8日を超えたなら,もう解約できないと思いますね。
この事例を聞いた太郎さんの見解
確かに,契約から8日以内なら,クーリングオフはできるだろうと思います。しかし,Aさんは,なかば無理矢理契約させられた訳ですから,契約から8日を超えたとしても,一切解約できないというのも,かわいそうな気はしますね。
弁護士の見解
今回のケースでは,Aさんは,契約した日から6ヶ月以内なら契約の取消ができると思います。
まず,今回のような,アンケートだと称して商品を売りつける「キャッチセールス」という手法は,「訪問販売」と扱われます(特定商取引法2条1項1号)。ですので,契約から8日以内なら,クーリングオフの通知を送って解約ができるというのは,お二人が指摘されたとおりです(特定商取引法9条1項)。
ちなみに,クーリングオフは,通知を発送したのが契約から8日以内であれば,8日を超えてから相手に届いてもOKですが(特定商取引法9条2項),他方で,必ず「書面」で通知しなければいけないので,注意が必要です(特定商取引法9条1項)。
花子さんの質問
ちゃんと書面で通知しなければいけないんですね。ただ,契約から8日以内ならクーリングオフができるというのは分かるんですが,契約から6ヶ月以内なら取消できるというのは,どういう理由からなんでしょうか?
弁護士の説明
民法では,契約の取消ができるのは,原則として「詐欺」や「脅迫」のようなケースに限られています(民法96条)。しかし,今回のケースのような,事業者と一般の消費者との間での契約については,あからさまな「詐欺」や「脅迫」がなくても契約の取消ができる場合があるんです。
例えば,今回のケースのように,商品購入の勧誘を受けている際に,Aさんが帰りたいと言ったのに帰らせずに勧誘を続けたといった場合には,6ヶ月以内なら契約の取消ができるんです(消費者契約法4条3項2号)。
ですので,仮に契約から8日を超えてしまっていたとしても,6ヶ月以内であれば,Aさんは購入契約の取消ができるんです。
※本記載は令和元年7月27日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。