雇用期間の定めのあるパート社員の場合,契約期間が経過すれば,原則として契約が終了します。しかし,法律上,契約期間の満了時に更新を期待する合理的理由がある場合は,適切に雇用契約の更新の申込みをすれば,解雇権濫用の法理(客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当性のない解雇は無効になるという原則)と同様の保護を受けることになります(労働契約法第19条第1号,第2号)。
事例
Aさんは,4年前,B社にパートの事務職員として就職しました。就職にあたっては,雇用期間を6か月と定めていました。B社の社員構成は,ずっと以前から,正社員が半数,パート社員が半数くらいで,パート社員も原則として雇用契約が更新され続けている状況でした。Aさんも4年前に就職した以後,7回の契約更新がされましたが,B社の中では,特に改めてパート社員の契約更新のための書類を取り交わすなどの手続はされておらず,Aさんの契約も自動更新の状態でした。そして,仕事のできる優秀な社員だったAさんは,社内でも評価が高く,B社の社長からも普段から「Aさんは我が社の大切な戦力だし,今後もずっと働いてもらいたいな。Aさんの家庭の事情が許すなら,正社員にもなってもらいたいね。」などと言ってもらっていました。
そのような状況の中,Aさんは,仕事上のちょっとしたトラブルで,B社の社長に口答えしてしまい,社長を不機嫌にさせてしまいました。そうしたところ,後日,社長から,「Aさんとの雇用契約は6か月の定めがあって,来月末で契約期間の満了日が来るんだよね。Aさんはあくまで雇用期間が定められているパート社員なんだから,来月末で契約終了にさせてもらうよ。」と言われてしまいました。Aさんは,自分の雇用契約の更新時期が迫っていたということ自体,忘れてしまっていた状況ですが,契約上は確かに来月末で契約期間満了となります。
しかし,Aさんは,今後もB社に居続けられると考えていて,先日,夫との共働きの収入を前提に住宅ローンを組み,自宅を新築したばかりでした。
Aさんは,来月末でB社を退職しなければいけないのでしょうか。
この事例を聞いた花子さんの見解
Aさんの置かれた状況は,確かにかわいそうだとは思うんですが,Aさんは,雇用期間6か月という条件に納得して,B社に就職していた訳ですから,今さらその条件に従いません,という訳にはいかないんじゃないでしょうか。
この事例を聞いた太郎さんの見解
確かに,Aさんは,雇用期間6か月の条件でB社に就職していますが,普段からB社の社長からも,Aさんは今後働き続けられると思ってしまう,期待を持たせる発言がされていましたよね。夫婦共働きの収入を前提に住宅ローンを組んだばかりという,Aさんの置かれた状況も気の毒ですし,Aさんが救済されてもいいんじゃないかと思うんですが。
弁護士の見解
今回のケースでは,Aさんが契約更新の申し入れをすれば,B社を退職しなくて良い可能性が高いと思います。
まず,正社員などのように雇用期間の定めのないケースだと,法律上,「解雇権濫用の法理」により非常に強く保護されています(労働契約法第16条)。解雇権濫用の法理とは,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当性のない解雇は無効になるという原則のことで,正社員の解雇は余程の理由がない限り無効となってしまうんです。
他方で,今回のケースのように雇用期間の定めのあるパート社員のケースだと,契約期間が経過すれば,原則として,契約者双方の事情に関わらず,解雇手続を経ることなく契約が終了してしまうことになります。
しかし,法律上,契約期間の満了時に更新を期待する合理的理由がある場合は,適切に雇用契約の更新の申込みをすれば,解雇権濫用の法理と同様の保護を受けることになるんです(労働契約法第19条第1号,第2号)。
花子さんの質問
「更新を期待する合理的理由」ということですが,その有無は,具体的にはどのように判断されるんでしょうか。
弁護士の見解
「更新を期待する合理的理由」の有無について,過去の裁判例で考慮されてきた要素としては,①雇用の臨時性・常用性,②更新の回数,③雇用の通算期間,④契約期間管理の状況,⑤雇用継続の期待をもたせる言動・制度の有無などが挙げられます。
今回のケースでは,①Aさんの雇用は臨時的なものではなく常用性があること(①の要素),②7回も更新がされていること(②の要素),③雇用の通算期間も4年間と長期であること(③の要素),④B社では雇用期間の定めがあるパート社員も自動更新の扱いとしていたこと(④の要素),⑤B社の社長が雇用継続の期待をもたせる言動をしていたこと(⑤の要素),から考えて,Aさんには「更新を期待する合理的理由」があると考えられます。したがって,Aさんが契約更新の申し入れをすることにより,B社を退職しなくて良い可能性が高いと思います。
※本記載は令和元年8月3日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。