専業主婦にも休業損害は認められます。その金額は,実務では,専業主婦の収入を全女性の平均賃金と考えて,主婦業ができなかった期間や程度を考慮して休業損害の金額を算出することになります(最判昭和50年7月8日)。また,兼業主婦の方は,現実の収入額と全女性の平均賃金額のいずれか高い方を収入と考えて,休業損害の金額を算出しています。
事例
Aさんは,夫Bさんと結婚し,専業主婦として夫を支えています。
ある日,車で買い物に行く途中に赤信号で止まっていると,わき見運転の車に追突されてしまい,入院することになりました。1ヶ月入院した後,半年ほど通院し,医師から治療は終了と言われ,保険会社から示談の提案がされました。
しかしながら,Aさんが入通院していた際の休業損害について,専業主婦は収入がないので休業損害は0円と言われてしまいました。
たしかに,Aさんに収入はないものの入院している間はもちろん,通院している間も主婦業を休んだり,少しずつしかできなかったりと夫に負担をかけてしまっていたので,休業損害が0円というのはAさんは納得がいきません。
専業主婦には休業損害が認められないのでしょうか。
この事例を聞いた花子さんの見解
休業損害というのは,交通事故による負傷が原因で仕事を休んでしまったために減ってしまった収入のことをいうと思いますので,Aさんに収入がない以上,休業損害は認められないのではないでしょうか。
この事例を聞いた太郎さんの見解
たしかに専業主婦に給料は発生しないかもしれませんが,主婦業も立派な仕事です。その仕事ができなかったにもかかわらず,何の補償もないのは専業主婦に酷だと思いますので,専業主婦にも休業損害は認められると思います。
弁護士の見解
今回のケースでは,Aさんは,休業損害を請求することができます。
休業損害というのは交通事故による負傷が原因で仕事を休んでしまったことなどによる収入減のことをいいますので,原則として,この減ってしまった収入分を請求することができることになります。たしかに専業主婦には主婦業を休んでしまったことによって収入が減ってしまうということはありませんが,主婦業を業者に頼んだりすれば,当然にお金が発生する仕事ですし,その仕事ができなかったことに変わりはありません。そのため,専業主婦にも休業損害は認められることになります。その金額ですが,実務では,専業主婦の収入を全女性の平均賃金と考えて,主婦業ができなかった期間や程度を考慮して休業損害の金額を算出することになります(最判昭和50年7月8日)。
花子さんの質問
専業主婦の方は全女性の平均賃金を基準として休業損害の金額を算出するということですが,兼業主婦の方は給料を基準に考えられるんでしょうか。主婦業を行いながら,パートなどで働いている方は全女性の平均賃金より給料が低い方もいらっしゃると思うんですが・・・
弁護士の説明
確かに,平成28年度のデータを例に挙げると,全女性の平均年収額は376万円ほどになります(賃金センサス平成28年第1巻第1表,産業計,企業規模計,学歴計,女性労働者の全年齢平均の賃金額)。そのため,主婦業をしながらパートなどをされている兼業主婦の方の年収は全女性の平均賃金を下回ってしまうこともあると思います。そのため,実務では,兼業主婦の方は,現実の収入額と全女性の平均賃金額のいずれか高い方を収入と考えて,休業損害の金額を算出しています。
※本記載は平成30年3月9日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。