民法では,「隣の土地の植木の枝が境界線を越えるときは,その植木の所有者に、その枝を切除させることができる」と定められています(新民法233条1項)。ただし,隣の土地の植木の所有者に枝を切除するように催告したにもかかわらず,相当の期間内に切除しないなどの場合には,自分で枝を切り取ることができることになりました(新民法233条3項)。他方で,民法では,枝と根の取り扱いについて,異なった規定をしていて,「隣の土地の植木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる」と定めており,植木の所有者に根を切除するよう催告するなどの手順を踏むことは不要とされています(新民法233条4項)。
事例
AさんとBさんの自宅は,敷地が隣接しています。Bさんは,Aさん宅との境界線のすぐ近くにイチジクの木を植えているのですが,その枝が生い茂り,Aさん宅の敷地の方まで張り出してしまっています。
そして,秋頃には,熟したイチジクの実がAさん宅の敷地にたくさん落ちて,そのまま腐ってしまうので,Aさんは迷惑しています。Aさんは,イチジクの枝を自分で切ってしまってもよいでしょうか。
この事例を聞いた花子さんの見解
Aさんは自宅の敷地は自分の自由にできるはずですので,自宅の敷地まで張り出している部分の枝を,自分で切り落とすことができると思います。
この事例を聞いた太郎さんの見解
枝が自宅の敷地に張り出してきているとはいっても,イチジクの木はBさんのものですので,Aさんが勝手に枝を切り落とすことはできないのではないかと思います。
弁護士の見解
今回のケースでは,Aさんは,原則として自分で勝手にイチジクの枝を切ることはできませんが,一定の条件を充たせば自分で枝を切ることができると思います。
旧民法では,「隣の土地の植木の枝が境界線を越えるときは,その植木の所有者に、その枝を切除させることができる」とだけ定められていました(旧民法233条1項)。ですので,Aさんは, Bさんに対して,枝を切ってもらうなり,矯正するなりするように,申し入れをしなければならず,Aさんが自分で枝を切ることは出来ませんでした。
つまり,旧民法の規定によれば,もし,Bさんが,Aさんの申し入れに応じてくれない場合には,Aさんは,裁判所に訴訟を起こさなければなりませんでした。訴訟で請求する内容は,「Bさんの費用によって,第三者に枝の切り落としをさせる」というものになります。そして,隣の土地の樹木の枝が境界線を越えていさえすれば,裁判所が請求を認めてくれるというものではなく,枝が境界線を越えていても,それによって何らかの重大な損害を被ったか,または被るおそれがある場合以外は,このような請求は権利の濫用だと言われて,請求が認められない場合がありました。
しかし,このような旧民法の規定による結論は不合理であるとして,「民法等の一部を改正する法律」が令和3年4月21日に可決成立し(施行日は令和5年4月1日),隣の土地の植木の所有者に枝を切除するように催告したにもかかわらず,隣の土地の植木の所有者が相当の期間内に切除しないなどの場合には,自分で枝を切り取ることができることになりました(新民法233条3項)。
したがって,AさんがBさんに枝の切除を催告するなどの手順を踏んだ後であれば,Aさんは自分でイチジクの枝を切ることができると思われます。
花子さんの質問
Bさんが境界線の近くに植えている松の根がAさんの敷地まで伸びてきていて,Aさん宅の敷地の芝生を傷めている場合は,どうでしょうか。
弁護士の説明
このケースでは,Aさんは,自分で根を切り取ることができます。
民法では,枝と根の取り扱いについて,異なった規定をしていて,「隣の土地の植木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる」と定めています(新民法233条4項)。ですので,Aさんは,Bさんの承諾を得なくても,また,Bさんに切除を求めるなどの手順を踏まなくても,原則として自分で根を切り取ることができます。
ただ,このような場合でも,Bさんの松の木が高価なものであると思われるようなときには,Aさんは慎重に行動しなければなりません。Aさんに大きな損害が発生していないのに,松の根を切ったことによって,Bさんの松が枯れてしまった場合には,Aさんの行為が権利の濫用となって,Bさんが被った松の損害を賠償する責任を負うことになる可能性があります。
ですので,根が自分の敷地に伸びてきた場合にも,まずは,隣の家の人に対して,植木の植え替えなどをしてもらうように申し入れをするのが賢明だと思われます。
※本記載は令和5年6月10日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。