日本自動車販売協会連合会は,自動車販売契約の成立時期を,①自動車の登録日,②注文により販売店が車両の改造・架装・修理に着手した日,③自動車の引渡しがなされた日のいずれか早い日に成立すると定めています。また,クレジット契約の契約成立時期は,クレジット会社から顧客に対して確認の電話,信用調査が行われた後の,クレジット会社が承諾の通知をしたときになります。
事例
Aさんは,お金にあまり余裕がなかったので迷ったのですが,販売会社の人にせかされて,ボーナスをあてにしてローンを組み,新車を注文することにしました。そして,Aさんは,新車の注文書とクレジット契約書に署名押印をしました。ところが,Aさんは,急な出費が必要になったため,やはり新車の購入はやめようと考え,翌日,販売会社にキャンセルすると連絡を入れました。すると,販売会社から,「もうメーカーへ注文したので,キャンセルはできない」,「キャンセルするなら20%の違約金を払ってもらう」と言われてしまいました。
Aさんとしては,20%の違約金は高すぎるので払えません。まだクレジット会社からの確認電話も来ていないので,Aさんは,何とかキャンセルできないのでしょうか。
この事例を聞いた花子さんの見解
Aさんは,もうすでに,新車の注文書とクレジット契約書に署名押印してしまっているので,今更,キャンセルはできないのではないかと思います。
この事例を聞いた太郎さんの見解
Aさんは,契約の翌日にキャンセルの連絡をしたのですから,店舗以外で契約書を取り交わしたような場合には,クーリングオフを主張することができるのではないかと思います。
弁護士の見解
今回のケースでは,Aさんは,契約のキャンセルができると思います。
まず,クーリングオフについてですが,Aさんが販売会社の店舗以外で契約したような場合でも,自動車の購入契約については,クーリングオフの主張はできないと法律で定められています。これは,訪問販売による契約であっても,自動車の購入契約は,1回の訪問で契約することが少なく,購入意思が安定的であるのが通常であるためです。
太郎さんの質問
クーリングオフはダメなんですね。では,どういう理由でキャンセルができることになるのでしょうか。
弁護士の説明
自動車は,高額な商品で,メーカーから取り寄せ,装備など手を加えたり,登録するなど手間をかけて引き渡しされるのが通常なので,どの時点で契約が成立するのか,トラブルが生じやすいと言えます。
そこで,業界団体である日本自動車販売協会連合会は,自動車注文書標準約款を定めて,契約の成立時期を,①自動車の登録日,②注文により販売店が車両の改造・架装・修理に着手した日,③自動車の引渡しがなされた日のいずれか早い日に成立すると定めています。
今回のケースでは,注文書を書いた翌日のキャンセルであり,契約が成立するいずれの条件も充たしていないので,自動車の購入契約のキャンセルは可能と考えられます。
花子さんの質問
ただ,今回のケースでは,クレジット契約書に署名押印もしてしまっているんですよね。クレジット契約のキャンセルも可能なんでしょうか。
弁護士の説明
今回のケースでは,クレジット契約も成立しておらず,キャンセル可能と思われます。
クレジット契約の契約成立時期は,クレジット会社が承諾の通知をしたときになります。通常は,クレジット会社から顧客に対して確認の電話,信用調査が行われ,その後,クレジット会社による承諾がなされますから,それらがない今回のケースでは,まだクレジット契約も成立しておらず,キャンセル可能と思われます。
太郎さんの質問
ちなみに,キャンセルするのに20%の違約金がかかると言われている点は,どうなるんでしょうか。
弁護士の説明
この点についても,ここまで高額な違約金を支払う必要はないと思われます。
法律では,契約解除に伴う違約金については,その契約と同種の契約の解除に伴い事業者に生ずべき平均的損害を超えるものは,その超えた部分は無効となる,と定められています(消費者契約法9条1号)。
20%の違約金は,平均的損害をはるかに超えるものだと思われますので,これを支払う必要はないと思われます。ただし,車庫証明代などの実費が既に発生してしまっているような場合には,平均的損害が生じているものとして,その分は支払う必要はあると思います。
※本記載は令和元年5月4日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。