契約の成立には,双方の意思表示の合致が必要とされています。「18歳以上ですか?」という画面に「はい」とクリックしたとしても,有料会員登録の契約自体成立していません。また,一般の消費者と事業者とが結ぶ電子契約について,意思表示の「確認を求める措置」がとられていないと,一般の消費者の勘違いに落ち度があるとは主張できません(電子契約法3条)。
事例
フリーターのAさん(20歳)は,深夜,見たいテレビもないので,アダルトサイトにアクセスしました。「18歳以上ですか?」と画面に出たので,「はい」とクリックしたところ,突然画面が切り替わり,「有料会員に登録されました。請求額は100,000円です。」と表示されてしまいました。
これにびっくりしたAさんは,画面の下に「サポートセンター」の電話番号とメールアドレスが書かれていたので,間違いだと伝えるためにメールを送りました。
すると,これに対する返信メールには,「あなたの有料会員登録は確認できています。登録日より3日以内に下記口座にお振り込み下さい。○○銀行○○支店 普通 口座番号○○ 口座名義○○ なお,期限内に入金確認できない場合は,当社調査部門がメールアドレスから自宅・勤務先などを調査し,回収専門員が,あなたの自宅・勤務先にうかがい直接回収します。入金いただけない場合は,断固たる措置を取ります。」と書かれていました。
もう逃げられないと思っているAさん。Aさんは,請求されている10万円を払わなければいけないのでしょうか。
この事例を聞いた花子さんの見解
Aさんは,さすがに10万円は払う必要はないと思いますが,有料会員登録をキャンセルする,キャンセル料程度は払わなければならないのではないかと思います。Aさんは,アダルトサイトの映像を見るつもりでクリックしていったのですから,お金を払うつもりが無かったという言い訳は通用しないのではないかと思いますし,無料だと思いこんでいたAさんにも落ち度があるんじゃないかと思います。
この事例を聞いた太郎さんの見解
私は,Aさんは全く支払う必要はないと思います。「18歳以上ですか?」という画面に「はい」とクリックしただけですし,クリックしたときに10万円という金額も表示されていなかった以上,支払う義務がないんじゃないかと思います。
弁護士の見解
今回のケースでは,Aさんは,全く支払う必要はないと思います。
そもそも契約の成立には,双方の意思表示の合致が必要とされています。今回Aさんが「18歳以上ですか?」という画面に「はい」とクリックしたことは,10万円の有料会員登録の承諾ではありませんので,契約自体成立していないと言えます。
仮に業者から「無料だと思いこんでいたAさんには落ち度がある」と主張されたとしても,法律では,一般の消費者と事業者とが結ぶ電子契約について,意思表示の「確認を求める措置」がとられていないと,一般の消費者の勘違いに落ち度があるとは主張できない,とされています(電子契約法3条)。大手のネットショッピングサイトなどでは,利用者が申込の内容を入力した後,それまでに決めた内容がまとめて表示され,そこで「確定」というボタンをクリックして,初めて契約が成立する方式をとっています。
今回ケースでは,このような方式すらとられていませんので,あらゆる意味で,有効な契約が成立したとはいえないと思います。
花子さんの質問
法律上,支払義務が無いことは分かったんですが,今回のケースでは,Aさんは,業者にメールを送ってしまっていますよね。ここから自宅や勤務先を調べられてしまって,取り立てに来られたら,アダルトサイトを利用しようとしたことが家族や職場にバレてしまわないか心配なんですが,これを防ぐ手段は無いものでしょうか?
弁護士の説明
そもそも,私的なメールアドレスから自宅や勤務先を調べるのは,警察などの公的機関以外は無理なことです。
今回の業者は,明らかに悪徳業者ですから,業者が警察に被害届を出すこと自体あり得ないでしょうし,警察がこのような業者の被害届で動くこともまずありません。
ですので,今回のケースでは,自宅や勤務先を調べられて取り立てに来られるという可能性自体が無いと思います。
※本記載は令和元年5月18日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。