賃貸人の地位は,不動産の所有者が変われば,特に賃借人の同意がなくても当然に新所有者に移転すると考えられています(旧民法の解釈,2020年4月1日施行の新民法605条の2第1項)。しかし,不動産の旧所有者が賃貸人であったときの未払賃料は,個別に新所有者に譲渡する手続きをとらなければ,新所有者に移転することはありません(旧民法・新民法の解釈)。他方で,敷金は,賃貸人が新しいオーナーに変われば,敷金も新しいオーナーに引き継がれることになります(旧民法の解釈,新民法605条の2第4項)。
事例
Aさんは,Bさんからアパートを賃借していましたが,Aさんが賃借していたアパートのオーナーがBさんからCさんに変更になったので今後の賃料はCさんに支払うようにとの知らせがBさんとCさんからありました。そのため,AさんはCさんに賃料を支払うようになりましたが,それから半年後,BさんからAさんに,Bさんがアパートのオーナーだった際に未払いだった賃料が1ヶ月分あるので,その支払いをして欲しいと連絡がありました。
たしかに未払いの賃料はあったものの,それをBさんに支払うべきなのか,それとも新しいオーナーであるCさんに支払うべきなのか,Aさんは悩んでしまいました。
Aさんは,どちらに支払いをするべきなのでしょうか。
この事例を聞いた花子さんの見解
Aさんは,Bさんに支払うべきだと思います。Aさんが支払っていない賃料はBさんが賃貸人のときにすでに発生していたものですので,その後にオーナーが変わったとしてもBさんが受け取ることができると思います。
この事例を聞いた太郎さんの見解
Aさんは,Cさんに支払うべきだと思います。Aさんの賃貸借に関することについては,すべてCさんが引き継いでいると思いますので,オーナーが変わった以上,Cさんに支払うべきだと思います。
弁護士の見解
今回のケースでは,AさんはBさんに支払わなければなりません。
賃貸人の地位は,不動産の所有者が変われば,特に賃借人の同意がなくても当然に新所有者に移転すると考えられています(旧民法の解釈,2020年4月1日施行の新民法605条の2第1項)。賃貸物件を取得した新所有者は賃料を取得して投資したお金を回収したいと考えるのが自然ですし,賃借人としても新所有者が賃貸人となったとしても通常不利益はないからです。
しかしながら,不動産の旧所有者が賃貸人であったときの未払賃料は,旧所有者が賃貸人であった時に既に発生していた独立のものですので,賃貸人の地位の当然の内容をなすものではありません。そのため,未払賃料については,個別に新所有者に譲渡する手続きをとらなければ,新所有者に移転することはありません(旧民法・新民法の解釈)。
花子さんの質問
未払いの賃料は,新しいオーナーに引き継がれないということなんですが,敷金はどうなんでしょうか。
弁護士の説明
賃貸借契約と敷金契約は別の契約ではあるんですが,敷金というのは賃料の支払義務など賃借人が負担するであろう一切の義務を担保するためのものです。例えば,賃貸借契約が終了するときに支払いが滞っている賃料があれば敷金から未払賃料相当額を差し引いて残額を賃借人に返還がされたりします。そのため,敷金は,賃貸人のために,その地位と結びついて存在するものと言えます。ですので,賃貸人が新しいオーナーに変われば,敷金も新しいオーナーに引き継がれることになります(旧民法の解釈,新民法605条の2第4項)。
そのため,Aさんがアパートを出るときにはCさんから敷金を返還してもらうことになります。
※本記載は令和元年6月15日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。