民法上,土地の時効取得について,占有開始時,自分の所有だと過失なく信じていた場合には,10年間の占有で足ります(民法162条2項)。他方で,他人所有について悪意・有過失の場合には,20年間の占有が必要です(民法162条1項)。そして,占有期間については,自分の占有だけを主張しても良いし,前の占有者の占有も併せて主張しても良いとされています(民法187条1項)。
事例
Aさんは,X地の所有者から,X地を購入し,月極め駐車場にして賃貸していました。それから5年が経って,Aさんは病気で亡くなり,子どものBさんがAさんの全財産を相続しました。ところが,Bさんは,Aさんが病気になって亡くなる直前,相続に向けてAさんの財産を確認したのですが,Aさんが月極め駐車場にして賃貸していた土地は,実はX地ではなく,本当のX地の隣にあるY地であることを知りました。Aさんは,月極め駐車場にした土地がX地であると過失なく信じたようではありましたが,Bさんとしては,この土地をこのまま月極め駐車場にして賃貸し続けて良いものか迷いました。しかし,Bさんは,これまでY地の本当の所有者から,何も文句を言われてこなかったこともあり,目の前の問題から逃避してしまって,その土地を月極め駐車場として賃貸し続けてしまいました。
そうして,Bさんが,その土地を相続してから更に6年が経過したある日,Y地の本当の所有者が亡くなり,その相続人がY地の状況を確認して,Bさんが月極め駐車場として賃貸を行っていることを知ったのです。そして,ついにY地の所有者の相続人からBさんに対して,Y地を明け渡すように要求が来てしまいました。
Bさんとしては,月極め駐車場にしているY地を明け渡せと要求されるのも,もっともな話だと思う一方で,Aさんの代から合計すると11年間もY地を占有していたので,Y地を時効で取得することができるのではないかとも考えています。
Bさんは,Y地を時効で取得することができるのでしょうか。
この事例を聞いた花子さんの見解
Bさんは,Y地の時効取得はできないと思います。あくまでBさんは6年間しか占有していないんですし,また,Bさんは,あくまで月極め駐車場にしていたY地は,X地とは別の土地だということを,相続の当初から知っていたわけですから,そのようなBさんを守ってあげる必要はないと思います。
この事例を聞いた太郎さんの見解
私は,Bさんは,Y地の時効取得はできると思います。親子で合計11年間も占有し続けていたわけですし,やっぱりこれだけの長期間の占有は,保護してあげてもいいように思います。
弁護士の見解
今回のケースでは,Bさんは,Y地を時効取得できると思います。
民法では,土地の時効取得について,占有を始めた時点で,自分の所有だと過失なく信じていた場合には,10年間の占有で足りるとされています(民法162条2項)。他方で,自分の所有でないと知っていた,または,自分の所有だと信じたことに過失があった場合には,20年間の占有が必要とされています(民法162条1項)。
そして,占有期間については,自分の占有だけを主張しても良いし,前の占有者の占有も併せて主張しても良いとされているんです(民法187条1項)。
したがって,今回のケースでは,Bさんは,自分の占有期間である6年間だけでなく,Aさんの占有期間である5年間も併せて主張し,合計11年間の占有を主張することができるんです。
花子さんの質問
Bさんは,相続により占有を始めた時点で,自分の所有でないと知っていたわけですよね。それだと時効期間は20年間にならないんでしょうか。
弁護士の説明
実は,前の占有者の占有と併せて占有期間を主張する場合には,裁判例上,最初の占有者が占有を始めた時点で,自分の所有だと過失なく信じていたか否かを判定すればよいとされているんです(最判昭和53年3月6日)。
したがって,Aさんが自分の所有だと過失なく信じていた以上,Bさんが自分の所有でないと知っていたとしても,時効期間は10年間になるんです。
※本記載は令和元年11月2日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。