民法では,境界上の塀について,当事者の協議が整わない時には,板による塀か竹垣を設置することとされていますが(民法225条2項),その場合,中程度,平均的な素材で建てることになります。ただし,当事者の協議が整わなければ,板による塀や竹垣以外の材質の塀を建てることが全くできないわけではなく,別の素材が認められた裁判例もあります(東京地裁昭和45年7月14日判決など)。
事例
Aさんの自宅は公道に面しているものの,これまで自宅の周りに塀はありませんでした。しかしながら,人や車の往来が最近増えてきたので,Aさんは自宅の周りに塀を建てる事を考え,隣の家との境界線上にも塀を建てたいと考えています。
そこで,Aさんは隣の家のBさんに境界線上に塀を建てることを相談に行きましたが,Bさんからはそんなものは必要ないと塀を建てることに反対されてしまいました。
Aさんは人や車が自宅の横を通ればAさんとBさんの家の間から自宅の中が見えてしまう恐れもあるとBさんを説得するのですが,Bさんはまったく聞く耳を持ってくれません。
Aさんは境界線に沿って自分の土地に塀を建てることも考えましたが,自分の土地に塀を建てると裏口のドアが開かなくなってしまう恐れがあり,それもできません。
AさんはBさんの家との境界線上に塀を建てることはできないのでしょうか。
この事例を聞いた花子さんの見解
境界線上に塀を建てるのであれば,Bさんの土地の上にも塀が建つわけですからBさんの承諾なく,塀を建てることはできないのではないでしょうか。
この事例を聞いた太郎さんの見解
たしかにBさんの土地上に塀が建つことになりますが,自宅の横を通る方々の目も気になると思いますし,Aさんの土地だけに塀を建てることもできないのであれば,境界線上に塀を建てることもできるのではないでしょうか。
弁護士の見解
今回のケースでは,Aさんは境界線上に塀を建てることができると考えられます。
民法では,建物の所有者は隣り合った建物の所有者に対して,共同の費用で境界線上に垣根や塀を設置するように協力を求めることができるとされています(民法225条1項)。すなわち,塀の設置費用は折半で境界線上に塀を建てることへの協力を求めることができます。ただし,建物の所有者が勝手に塀を建てられるわけはなく,隣の建物の所有者に同意がもらえないのであれば,裁判所に垣根や塀の設置への協力を求める裁判をして,判決を得て行わなければなりません。
太郎さんの質問
建てる塀というのはどのようなものでもいいんでしょうか。
弁護士の説明
民法では,当事者の協議が整わない時には,板による塀か竹垣を境界線上に設置することとされていて,その高さも2メートルにすると定められています(民法225条2項)。また,塀を建てるのに同意をしていない隣の建物の所有者が費用の半分を負担することからも板による塀や竹垣であれば何でもいいということではなくて,中程度,平均的な素材で建てることになろうかと思います。
ただし,当事者の協議が整わなければ,板による塀や竹垣以外の材質のものを境界線上に建てることがまったくできないというわけではなく,別の素材が認められた裁判例もあります(東京地裁昭和45年7月14日判決など)。そのため,例えば,ブロックによる塀を建てたいということであれば,板による塀や竹垣で建てた場合よりも余分にかかる費用は塀を建てたいと考えている当事者が負担するという方法で塀の設置への協力を求める裁判をするということも考えられると思います。
※本記載は令和元年11月16日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。