債務の「承認」は消滅時効中断事由の1つです(民法147条3号)。しかし,時効中断の効力が及ぶ範囲は,その中断事由が生じた当事者間だけです(民法148条)。また,連帯保証の場合も,連帯保証人が主債務である借金について承認しても,その主債務について時効中断の効力は生じません(民法458条,440条)。他方,主債務が消滅すれば,「附従性」により,連帯保証債務も消滅します。
事例
Aさんは,飲食店で店員として働いていましたが,生活が苦しく,友人であるBさんに100万円の借金をお願いしてきました。そして,友人の頼みだし断れないな,と考えたBさんでしたが,その際,Aさんに借用書を書いてもらうだけでは心配だと考えたBさんは,Aさんのお父さんにも連帯保証人になってもらいたいとお願いし,Aさんのお父さんにも借用書に連帯保証人として署名押印してもらいました。
しかし,その借金を返すことができないまま8年が経過したとき,100万円の貸金の時効が近いと考えたBさんは,返済してくれるあてのなさそうなAさんではなく,頼りにしている連帯保証人であるAさんのお父さんに100万円の借金の返済を約束する確認書に署名押印をしてもらいました。
そうして,Aさんが100万円の借金を返さないまま,10年が経過した後しばらくして,突然,Bさんのもとに,Aさんから借金の時効を主張する内容の文書が届きました。
あわててAさん,Aさんのお父さんと会って話をしたBさん。8年たった時点で,Aさんのお父さんに確認書を書いてもらっているので,時効はストップしていると主張しましたが,Aさんは,自分はその確認書のことは知らなかったとして借金の時効を主張して譲りませんでした。さらには,8年たった時点で確認書を書いてくれたAさんのお父さんまで,借金をした本人であるAさんが時効を主張するなら,自分の連帯保証債務もなくなるのでは?と言い出す始末でした。
Bさんは,100万円の貸金について,AさんとAさんのお父さんに返済を求められないのでしょうか。
この事例を聞いた花子さんの見解
Bさんは,AさんにもAさんのお父さんにも,100万円の返済を求められると思います。確かにお金を借りた本人はAさんですが,連帯保証人であるAさんのお父さんも,一心同体の連帯責任を負っていると思いますから,8年たった時点でAさんのお父さんが確認書を書いている以上,2人とも時効の主張はできないと思います。
この事例を聞いた太郎さんの見解
私は,Aさんのお父さんには100万円の返済を求められると思いますが,Aさんには返済を求められないんじゃないかと思います。確認書がある以上,Aさんのお父さんは時効を主張できないと思いますが,Aさん本人は,その確認書のことを知らないわけですから,Aさんが時効を主張できないのはかわいそうだと思いますね。
弁護士の見解
今回のケースでは,Bさんは,AさんにもAさんのお父さんにも返済を求められないと思います。
民法では,債権の消滅時効は10年間とされていて,10年が経過した後に時効を主張された場合には,債権は消滅すると定められています(民法167条1項)。
他方で,時効期間の進行をストップさせる制度として,時効中断の制度もあり,債務の「承認」も時効中断事由のひとつとして定められています(民法147条3号)。
しかし,このような時効中断の効力が及ぶ範囲は,その中断事由が生じた当事者間だけとされています(民法148条)。また,連帯保証の場合も,連帯保証人が主債務である借金について承認しても,その主債務について時効中断の効力は生じないとされています(民法458条,440条)。
今回のケースでは,確認書で借金を承認したのは,あくまで連帯保証人にすぎないAさんのお父さんです。したがって,主債務者であるAさん本人の時効は中断せず,Aさんは,10年が経過したことによる消滅時効の主張ができることになるんです。
太郎さんの質問
では,確認書に署名押印したAさんのお父さんも,返済しなくてよくなるのはなぜなんでしょうか。
弁護士の説明
Aさんのお父さんは,Aさんの100万円の借金を主債務とする連帯保証人です。実は,この連帯保証には,「主たる債務者について生じた事由が,原則として,すべて保証人につき効力が及ぶ」という「附従性」という性質があると考えられているんです。
今回のケースでは,主債務であるAさんの100万円の借金が,時効で消滅することになります。すると,Aさんのお父さんの連帯保証債務についても,主債務の消滅に従って消滅するという「附従性」の効力が生じることになるんです。
したがって,Aさんのお父さんは,自分自身が確認書を書いていたとしても,主債務であるAさんの借金の消滅にともなって,自分の連帯保証債務の消滅も主張できることになるんです。
※本記載は平成31年2月9日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。なお,本記載は令和2年4月1日の改正民法施行前の条項を前提にしています。