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相続

遺言後の抵触行為

遺言はいつでも撤回でき(民法1022条),一定の場合には,撤回があったものとみなされますが,その1つが,遺言と抵触する生前贈与がされた場合です(民法1023条2項)。しかし,生前贈与の際,ひどい認知症だった等の場合には,その生前贈与は無効となります。ただし,その場合でも撤回されたとみなされた遺言が復活するわけではなく(民法1025条本文),改めて遺産分割協議が必要です。

遺言後の抵触行為

事例

 Aさんには,妻と2人の息子がいますが,妻と長男であるBさんと3人で暮らしており,次男であるCさんは結婚して同じ市内に妻と子供と暮らしていました。そこで,Aさんは,Cさんには既に自分の家があるため,自分たちが住んでいる家をBさんに相続させ,近くにある駐車場をCさんに相続させようと考え,その旨の遺言書を作成して,Cさんに渡していました。
 その後,5年後にAさんは亡くなったため,Cさんは,父親から渡されていた遺言書をBさんに見せて,駐車場は自分が相続すると告げましたが,Bさんは,駐車場はすでにAさんから贈与を受けて,自分の名義になっていると言いだしました。驚いたCさんが,いつ贈与を受けたのか聞くと,1年ほど前だということでした。しかしながら,Aさんは3年ほど前から認知症がひどくなり,施設に入所していたことから,Cさんは,Bさんへの駐車場の贈与は,とても父親の真意だとは思えませんでした。
 Cさんは,駐車場を相続することができないのでしょうか?

この事例を聞いた花子さんの見解

 遺言は,亡くなった方の最後の意思を示すものだと思います。遺言を作成した後,Aさんが遺言と異なる行動を取ってしまったとしても,認知症がひどくなった後のことで,Aさんの真意に基づくものとも思えないですし,新たな遺言もないのですから,Cさんは,駐車場を遺言どおり相続できるのではないでしょうか。

この事例を聞いた太郎さんの見解

 Aさんは,遺言を残していますが,その後に遺言と異なる行動をとっているのですから,それこそがAさんの最後の意思ということではないでしょうか。たしかにAさんが認知症だったということですが,結局Aさんの真意がどうだったのかは分かりかねると思いますので,Aさんの最後の意思の表明であるBさんに対する贈与によって,Cさんは,駐車場を相続できないのではないでしょうか。

弁護士の見解

 今回のケースでは,Cさんは,駐車場を相続できる可能性があると思います。
 民法では,遺言はいつでも撤回することができるとされています(民法1022条)。これは,遺言者の最終意思を実現するのが遺言の目的ですから,時間の経過の中で遺言者の意思も変わることがあるからです。撤回するには,遺言の方式よることが必要なんですが,一定の場合には,撤回があったものとみなされることがあります。その1つが,遺言と抵触する生前贈与がされた場合です(民法1023条2項)。
 そのため,Cさんに駐車場を相続させるという遺言は,AさんからBさんへの生前贈与によって,撤回されたとみなされ,Cさんは駐車場を相続できないようにも思えます。
 しかしながら,Aさんは,Bさんに駐車場を贈与した際,認知症がひどくなっていたため,こうしたいという自分の意思を持つだけの能力があったのかどうかがかなり疑問であり,この能力がなかったということを明らかにすることができれば,AさんからBさんへの贈与は無効となります。
 ただし,AさんからBさんへの贈与が無効になったからといって,撤回されたとみなされたCさんに駐車場を相続させるという遺言が復活するわけではありませんので(民法1025条本文),改めて遺産分割協議をしてCさんが相続するように話し合わなければいけません。

太郎さんの質問

 Aさんにこうしたいという自分の意思を持つだけの能力がなかったということを明らかにできれば,贈与が無効になるということですが,Aさんに能力がなかったということは,どのように明らかにすればいいんでしょうか。

弁護士の説明

 まず,Aさんに客観的な立場で関与した方々の記録や証言などから明らかにすることが考えられます。
 Aさんは,Bさんに駐車場を贈与する2年ほど前から認知症がひどくなり,施設に入所していたということなので,そこでの日々の症状の記録などの資料や施設に入所する前や後に病院に入院や通院をしていれば,診療録などを調査して,病名や症状の経過などを把握することが考えられます。
 そして,Aさんが贈与をしたころどのような状態だったのか,同居していたAさんの妻などの親族から贈与の経緯や動機などの聴き取りをして,不自然なところがないかなど丹念に調査をすることが必要になると思います。

※本記載は平成31年3月30日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。

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