期間の定めのない労働契約においては,労働者は,2週間の予告期間をおけば,いつでも労働契約を解約することができます(民法627条1項)。他方で,会社が労働者を解雇する場合には,労働契約法によって,民法の原則が修正されていて,解雇に客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当な場合であることが必要になります(労働契約法16条)。
事例
Aさんは,B社に10年間勤めていましたが,C社から「うちに来ないか。」と勧誘され,迷った末,転職することを決意し,C社に対して転職することを告げました。そこで,Aさんは上司に退職したいと申し出ましたが,上司はなかなか応じてくれず,思いとどまるようAさんに説得を繰り返しました。
AさんがC社に相談すると,C社は1か月後に来てもらうことを前提に準備しているので,それに間に合わないと困ると言ってきました。困ったAさんは,上司に辞表を提出して,業務を引き継いだ上で2週間後にB社を退職し,C社に勤務することになりました。
その後,いつまでたってもB社から支給されるはずの退職金が支給されないので,AさんがB社に問い合わせると,B社を退職するためには,会社の承認が必要であると規則に定められているので,それに違反しているAさんには退職金は支給しないと言われてしまいました。
Aさんは退職金を支給してもらうことができないのでしょうか。
この事例を聞いた花子さんの見解
Aさんは,退職には会社の承認が必要という規則に違反して,一方的に会社を退職しているわけですから退職金を支給してもらうことはできないのではないでしょうか。
この事例を聞いた太郎さんの見解
たしかに退職するのに会社の承認が必要だという規則はありますが,Aさんが会社を退職するのは自由だと思いますので,Aさんは退職金を支給してもらうことができると思います。
弁護士の見解
今回のケースでは,Aさんは,退職金を支給してもらうことができると思います。
民法では,期間の定めのない労働契約においては,当事者は2週間の予告期間をおけば,いつでも労働契約を解約することができると定められています(民法627条1項)。そのため,労働者は一方的な意思表示によって労働契約を終了させることができます。これは退職するためには会社の承認が必要だと会社の規則で定められていたとしても変わりません。それは,退職をするのに会社の承認が必要という規定は労働者の一方的な意思表示による辞職を制限するものとして無効になるからです。そのため,Aさんが辞表を提出してから2週間を経過すれば,AさんとB社の労働契約は終了することになります。しかも,Aさんはしっかりと引き継ぎをした上で退職していますので,会社の承認を得ないまま退職したことを理由に退職金を支給しないということはできません。
花子さんの質問
期間の定めのない労働契約においては,当事者は2週間の予告期間をおけば,いつでも労働契約を解約することができるということですが,そうすると会社側もいつでも労働契約を解約することができるということなんでしょうか。
弁護士の説明
会社側が一方的に労働契約を解約するというのは解雇にあたります。
会社が労働者を解雇する場合には,労働契約法によって,民法の原則が修正されていて,いつでも解雇できるというわけではなく,客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当な場合であることが必要になります(労働契約法16条)。ですので,会社側に関しては,いつでも労働契約を解約できるというわけではありません。
※本記載は平成31年4月13日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。