賃料不払いを繰り返しアパートの賃貸借契約の解除が認められるケースでも,その権利を実現するには,賃借人の明渡の同意が無い場合,賃貸人が,裁判所で建物明渡の判決をもらい,その判決を元にして,裁判所に明渡の強制執行をしてもらう必要があります。このような手続を踏まず,不動産業者が,勝手に鍵を付け替える行為は,「自力救済の禁止」の原則に違反して,違法行為となります。
事例
Aさんは,敷金礼金ゼロで,家賃が4万円のアパートに入居して,滞りなく家賃を支払っていました。しかし,1年位経ったころ,自動車税の支払いなどで,急な出費が続いたことから,アパートの家賃を2ヶ月分滞納してしまいました。
早く支払わなければいけないと思って,金策をしていたところ,Aさんが,ある日仕事から帰ってくると,新しい鍵がつけられていて,アパートに入ることが出来なくなってしまっていました。
突然のことだったので,驚いて,賃貸借契約の仲介業者である不動産会社に連絡をしたら,「こちらの会社の方で,鍵を追加させてもらった。2か月も家賃が支払われていないのだから,部屋を利用できなくて当然だ。賃貸借契約書に家賃を滞納した場合は,施錠されても異議を述べないと記載してあるし,2か月分の賃料未払いがある場合には,賃貸借契約の解除が認められる判決もあるから,こちらが法律上正しいことをしているだけだ。」と言われて,全くとりあってもらえませんでした。
確かに,自分が家賃を滞納していたことは悪いとは思いますが,部屋の荷物も取り出す時間もないままに部屋に入れなくなってしまうのは,いくらなんでもやりすぎなのではないかと思うAさん。追加された鍵を取り外してもらって,住み続けられる可能性はないのでしょうか。
この事例を聞いた花子さんの見解
この不動産会社のやり方は,やり過ぎだと思いますが,契約書に書いてあることや,不動産業者が言っていた判決というのが,本当なのであれば,対抗しても,無駄になってしまうのではないかと思います。
この事例を聞いた太郎さんの見解
一部でもいいから,今からでも家賃を支払って,何とか居住を続けるように話し合いをしたら良いのではないかと思います。
弁護士の見解
今回のケースでは,Aさんは,アパートに住み続ける権利があるといえます。
まず,賃料不払いがある場合に,賃貸借契約の解除が認められるかについては,はっきりとした決まりがあるわけでなく,そのケースで賃借人と賃貸人の「信頼関係の破壊」があるかどうかによります。例えば,2カ月の家賃滞納となる前に何回か家賃の滞納と滞納解消を繰り返していること等が考慮されます。したがって,「2カ月の家賃滞納」という一つの事情だけで,解除が当然に認められるということはありません。
今回のケースでは,これまで滞りなく家賃を支払っていたということですので,賃貸借契約の解除が認められる可能性は低いと思います。
しかし,実は,今回のケースで重要なのは,この「賃貸借契約の解除が認められるかどうか」というところではありません。今回のケースでは,不動産業者が,勝手に鍵を付け替えたことが,「自力救済の禁止」という原則に違反して,不動産業者の違法行為となると考えます。
仮に,今回のケースが,Aさんが賃料の滞納を繰り返していて,賃貸借契約の解除が認められるケースだったとしても,その権利を実現化するには,賃借人の明渡の同意が無い場合,賃貸人が,裁判所で建物明渡の判決をもらい,その判決を元にして,裁判所に明渡の強制執行をしてもらう必要があります。
このような手続を踏まないで,勝手に鍵を付け替えることは,緊急やむを得ない特別の事情が無い限り,自力救済の禁止という原則に違反することになり,違法行為となります。
そして,「賃貸借契約書に家賃を滞納した場合は,施錠されても異議を述べない」との記載は,公序良俗に反して無効となると思われますので,この契約書の記載を気にする必要もないでしょう。
つまり,今回のケースは,不動産業者が,違法行為をして,賃貸人の住まいを一方的に奪っているケースであるといえますから,不動産業者や賃貸人に対して,直ちに部屋に立ちいることが出来る状態にするように要求することが出来るでしょう。
それだけでなく,この不動産業者の行動は,先ほども述べた通り,違法行為ですので,損害賠償請求をして,お金を支払うように求めることも出来るでしょう。
このような不動産業者は,違法な追い出し行為を行う「追い出し屋」と見るべきです。このような不動産業者と交渉をすると,賃料の不払いという状態を隠れ蓑にして,賃借人の弱みや罪悪感に付け込んで,不動産業者側の違法行為を誤魔化そうとしてきますから,それに惑わされないように,賃料不払いという状態が賃貸借契約に与える影響がどんなものであるのかを認識しつつ,不動産業者側の違法行為であるということを頭において,交渉をするのが良いと思います。
そして,今回のケースで,今後も賃料不払い状態が長く続いてしまうと,先ほど言った正式な裁判の手続を踏まれて,部屋を出て行かざるを得なくなることもありますから,Aさんとしては,早期に賃料不払い状態を解消した方が良いと思います。
※本記載は平成30年9月8日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。