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建物明渡

期間の定めのある建物の賃貸借契約の終了

契約期間が定められている建物の賃貸借契約の場合,賃貸人が,賃貸借契約を終了させようとするなら,契約期間満了前1年前から6か月前までの間に,賃借人に対して,更新をしない旨の通知をしなければならず,この更新拒絶の通知が無い場合には,法律上は,契約の更新がされたものとなります(借地借家法26条1項)。また,6か月前の時点で,更新拒絶の通知がされていたとしても,賃貸借契約を終了させるには,「正当事由」と呼ばれる事情が必要になります(借地借家法28条)。

期間の定めのある建物の賃貸借契約の終了

事例

 Aさんは,契約期間を2年として,築5年の一軒家を借りて,4人家族で居住していました。Aさんは,契約期間の満了時期には,契約の更新がされるのだろうと考えていましたが,契約期間満了の4カ月前の時点で,賃貸人が,賃貸人の長男家族に,その家を使わせてやりたいので,契約の更新をしないと言い出してきました。
 賃貸人は,4ヶ月もあれば,新しい家が探せるだろうから,問題ないだろうと言って,出て行く準備をするようにと言ってきましたが,Aさんとしては,特に今まで賃料を滞納したことがあるわけでもなく,問題を起こしたわけでもないのに,賃貸人の一方的な事情で,新しい居宅を探さなければならなくなるのは,納得がいきません。
 Aさんたちは,今の家に居住し続けることは出来ないのでしょうか。

この事例を聞いた花子さんの見解

 契約期間が2年だったんですから,その期間終了時点で,賃貸人が,物件を貸す意思がないのなら,賃貸借契約は終了してしまうのではないでしょうか。賃貸人にもその家を使用する理由があるのですから,Aさんたちは,出て行かざるを得ないのだと思います。

この事例を聞いた太郎さんの見解

 賃貸人が出て行ってもらいたいと考えているのだから,それに逆らって住み続けるのは難しいのではないでしょうか。しかし,Aさんたちが出て行かざるを得ないとしても,Aさんたちには責任のないことですから,立ち退き料を要求してみたら良いと思います。

弁護士の見解

 今回のケースでは,Aさんたちは,法律的には,借家を出て行かなくても良いといえます。
 まず,契約期間が定められている賃貸借契約の場合,賃貸人が,賃貸借契約を終了させようと思うのなら,契約期間満了前1年前から6か月前までの間に,賃借人に対して,更新をしない旨の通知をしなければいけません。この更新拒絶の通知が無い場合には,法律上は,契約の更新がされたものとなります(借地借家法26条1項)。これを,法定更新といいます。
 今回のケースでは,契約期間満了6か月前の時点で,更新拒絶の通知がされていないので,法定更新がされていることになり,賃貸人は,2年の契約期間満了時点で賃貸借契約を終了させることは出来ません。

花子さんの質問

 そうだとすると,仮に,6か月前の時点で,更新拒絶の通知がされているとしたら,Aさんたちは,出ていかなければいけないということになるんですよね。

弁護士の見解

 仮に,6か月前の時点で,更新拒絶の通知がされていたとしても,今回のケースでは,賃貸人が,賃貸借契約を終了させることは難しいでしょう。
 なぜなら,契約期間の定められている賃貸借契約を終了させるには,更新拒絶の通知と共に,「正当事由」と呼ばれる事情が必要になります(借地借家法28条)。これは,当事者双方の建物使用の必要性を主たる判断要素として,その他賃貸借契約に関する様々な事情を考慮して判断されます。
 その他の事情の中には,今までの賃料支払い状況や,建物の老朽化の程度等と共に,立ち退き料の提供や,代わりの建物の提供等も考えられます。しかし,最も重要であるのは,当事者双方の建物使用の必要性です。
 今回のケースでは,賃貸人長男夫婦が建物使用をするということで,一応建物使用の必要性がありますが,賃貸人本人が居宅として建物を使用するというわけではないので,賃貸人の建物使用の必要性としては,高いものではないといえるでしょう。それに対して,賃借人は,4人家族で居宅として使用していたので,賃貸人本人の建物使用の必要性があるといえます。
 その他の事情としての賃料不払いや建物の老朽化等の事情も見当たらないので,これが裁判になった場合,賃貸人の主張通りに賃貸借契約の終了が認められる可能性は低いでしょう。
 しかし,充分な金額の立ち退き料や代替建物の提供があった場合には,賃貸借契約の終了が認められる場合もあります。ですので,賃貸人に出て行ってほしいと言われている状態で,居住し続けるのが精神的に負担であるという方であれば,充分な額の立ち退き料や代替建物の提供を求めて,解決を図るというのも合理的な選択肢かとは思います。

※本記載は平成31年3月9日現在の法律・判例を前提としていますので,その後の法律・判例の変更につきましてはご自身でお調べください。

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